確保しておくべき運転資金の目安とは?計算方法も解説
会社を経営していくうえでは、運転資金が必要です。かつての城南電機、宮路社長のように現金を持ち歩き、掛売や掛買をせずすべて現金で決済することはほとんどありません。掛買をして定期的な支払いをするためには預金口座に現金が不可欠です。これが運転資金であり、その金額の目安や計算方法について知っておくことで、資金がショートして不渡りや倒産をしてしまうリスクを下げることができます。基本的なことをお話ししますので是非知っておきましょう。
運転資金とは
まず「運転資金」というものについて整理しておきましょう。運転資金とは、経営を行うにあたって必要な資金のことで「回転資金」と呼ばれることもあります。具体的には会社を経営するうえで恒常的に発生する費用、つまり、人件費や仕入れ費や家賃・事務所費用、インターネット・電話の通信費や水道光熱費などが該当します。
運転資金は事業継続に必要な資金であり、「必要運転資金(資本)」と呼ばれることもあります。運転資金が枯渇するとたとえ売上があっても、仕入れや固定費の支払いができなくなり、資金がショートして会社の倒産へつながってしまいます。
まさに「会社の血液」であり、必要な運転資金を確保することは会社経営の基本になります。
運転資金の種類
一言で「運転資金」と言っても実はいくつかの種類があります。ここで、それぞれの運転資金の種類について説明します。どんなものなのか目安として知っておいてください。
経常運転資金
一般的にイメージされる運転資金が、この「経常運転資金」です。
会社を現状と同じ状態で運営をするために必要な資金になります。人件費や事務所費用、仕入原価など恒常的に必要な資金の支払いに充当されます。
会社が商品の販売を掛売(売掛金)や手形で行っていて、仕入れも同様に買掛金やクレジットカード決済などで行っている場合、販売した売上の回収と、掛けで購入した資金の支払いにタイムラグが発生します。
例えば
4月1日 手持ち現金50万円
4月2日 商品を100万円の価格で掛売販売(入金日5月15日)
4月20日 来月分の仕入れを60万円で行う
この場合、商品は100万円で売れているのに、5月15日まで入金がないので、4月20日の仕入れができなくなってしまいます。資金繰りが悪化しており、手持ち現金50万円では仕入れ60万円の支払いができません。
そのため最低10万円を4月20日までにどこからか調達しないと、支払いができず不渡りとなってしまいます。この仕入れを確実に行うための余剰資金が経常運転資金というイメージになります。
増加運転資金
業績が良く、売上が増加しつつある状態で必要な運転資金が「増加運転資金」です。売上が伸びている状態では「攻めの経営」が必要で、新規案件をどんどん受注したり、商品の生産を増やしたりしていると、仕入れ資金もこれまで以上に必要になります。
その場合、帳簿上の売上は増えますが、掛売の関係で、入金日が先だと、自社の口座への入金がされず、その中で増えている商品の生産をしなければなりません。その際に口座に現金がなければ資金がショートして、仕入れができない、あるいは仕入れ資金の支払いができない状態になってしまいます。
これが行き着くと、いわゆる「黒字倒産」になってしまいます。決算書や試算表上は売掛金が多く黒字のはずなのに支払いができず倒産してしまう、ということを避けるために余剰資金である運転資金が必要になります。
季節運転資金
コンビニを例にすると分かりやすいですが、季節商品によって一時的に需要が高まる商品を売っている場合、その仕入れ資金が必要になります。
1年で考えると
- お正月(お餅、年賀状、門松等)
- 節分(恵方巻)
- バレンタインデー(チョコレート)
- ホワイトデー(お菓子)
- 土用の丑の日(うな重)
- 夏祭り、花火大会(コンビニとして出店)
- ハロウィン(お菓子)
- クリスマス
季節商品購入のコンビニオーナーへの負荷が問題となっていますが、こうした場合、その時期だけの運転資金が必要になります。これがないと、ノルマである季節商品販売のための仕入れそのものができなくなってしまいます。
需要が増加する時期は分かっていることも多く、あらかじめ季節運転資金の目安を考え、蓄えをしておく必要があるでしょう。
その他の運転資金
日常的なものでも季節的なものでもない運転資金も存在します。
例えば
- 納税資金
- 株式配当
- 役員報酬
- 賞与、ボーナス(毎月の給与ではない人件費)
これらも運転資金の準備が必要になります。法人税や所得税の納付期限に運転資金がなく支払いができない、という事態は避けたいものです(当然、納税遅延は加算税がかかりますし、下手をすると「脱税」になってしまいます)。
運転資金の計算方法(在高方式、回転期間方式)
運転資金、特に日々の安定した支払いである「経常運転資金」の場合、しっかり計算できる方法があります。ここでは計算方式について簡単に触れます。運転資金の計算方法には以下の2つの方式があります。
在高方式
通常の計算方式です。
(経常)運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産(原材料、仕掛品、商品・製品)-仕入債務(買掛金+支払手形)
で計算します。模式図を示すとこのようになります。
売上債権+棚卸資産-仕入債務がマイナスならば運転資金が足りていないことになり、金融機関からの融資などで調達しないと不渡りや倒産のリスクがあります。売上債権+棚卸資産-仕入債務がプラスであれば、ひとまず運転資金は通常の経営で確保できていることになります。
回転期間方式
もう1つの運転資金の計算方法として「回転期間方式」というものがあります。
これは、
- 売上債権回転期間=(売掛金+受取手形)/{年間売上高/365日(12ヵ月)}
- 棚卸資産回転期間=棚卸資産/{年間売上原価/365日(12ヵ月)}
- 買入債務(仕入債務)回転期間=(買掛金+支払手形+受取手形の譲渡高)/{年間売上原価/365日(12ヵ月)}
をまず計算し、それをもとに
売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間=運転資金回転期間
を計算します。運転資金回転期間×1日あたりの売上高=必要な運転資金が算出されます。
事例で見てみましょう。
運転資金の目安とは
運転資金の目安は、上の項で計算した金額となります。在高方式では概算しか計算できないので、回転期間方式で計算して、必要な運転資金を算出しておきましょう。
運転資金は月商の3か月分~6か月分は欲しいと言われています。上の事例で考えると
月商は (1000万円÷365日)×30日≒82万円 となります。
必要運転資金は 82×3=246万円~82×6=492万円
少なくとも250万円はいつでも使えるお金として用意しておきたいということになります。もちろん、会社の業績や業種、経営拡大中かなどによっても異なるため、運転資金の目安についてなかなか素人判断ができないこともあります。
まとめ 資金繰りのご相談は「企業パートナー110番」へ
以上運転資金について、その計算方法や目安にも言及しつつ説明いたしました。運転資金は予想以上に必要なのだとご理解いただけたはずです。とはいえ、手持ち現金(口座含む)をそれだけ用意するのはなかなか大変です。
むやみに借入をして返済に追われて経営が圧迫されるリスクもあります。そういう時は専門家のアドバイスを受けましょう。
「企業パートナー110番」には、運転資金を含めた資金調達や経営についてアドバイスできる専門家が揃っています。まず、ご相談いただき、自社の運転資金が十分か、目安などを計算してもらいましょう。運転資金があることで様々なリスクに対応できます。