会社分割と事業譲渡の違いを徹底比較 どちらの手段を選ぶべきか?
今の会社、ないし今会社で行っている事業をこのままでは存続できないので、誰かに経営を譲渡する必要があるとします。後継者がいない中小企業で、何とかして事業を存続させたい場合、事業承継(M&A)を行うことになりますが、その手法として「会社分割」と「事業譲渡」という2つの方法があるのを知ってください。今回は、会社分割と事業譲渡の違いやメリット、デメリットについて解説していきます。
事例
A有限会社はお菓子の製造販売と子供用玩具の製造販売を行っている会社です。経営者の高齢化や後継者不足もあり、事業承継したいと考えています。自社の製品は親、祖父母世代から親しまれたもので、このまま消えてしまうのはもったいなく、特にお菓子事業だけでも何とか存続できないか考えています
今回はこのA社の事例を踏まえて、会社分割と事業譲渡について解説していきます。
会社分割とは?
会社分割とは株式会社(特例有限会社含む)や合同会社で運営しているある事業について、その権利義務の全部ないし一部を「包括的に」別の会社へ承継することをいいます。
この事例で言うと、A社は特にお菓子事業を存続させたいので、お菓子の製造販売(レシピ等も含めて)の権利義務財産等を包括的に別会社に移譲することになります。
この会社分割は、新規設立した会社B株式会社へ承継するケース「新設分割」と、既存のC株式会社へ事業を承継する「吸収分割」の2つの方法があります。
なお、既存の会社とは「株式会社や合同会社」であり、有限会社は認められていません。あくまで株式会社化しているところへ委譲します。同業他社のD有限会社へは委譲することができませんので注意してください。
会社分割のメリット、デメリット
会社分割をするにあたってメリットとデメリットを確認しておきましょう。
会社分割のメリット
会社分割のメリットは下記になります。
個々の契約をそのまま承継できる
事業を継承した会社には従前の会社が行っていた各個の契約がそのまま承継されます。クライアントや取引先と再度契約を結ぶ手間がかからなくなります。
現金がなくても事業を譲り受けられる
会社分割の場合、現金ではなく株式を譲り受けることが多く、手持ち現金が少ない会社でも、M&Aを希望する会社から事業を譲り受けることができます。資金を用意しなくてもいいのが大きな魅力です。
税金面での優遇を受けられる
事業所と比較し、消費税や不動産所得税がかかりません、。また、「適格要件」を満たすことで他の税金についても減免措置を受けることができます。
従業員の個別同意が不要、包括的に雇用を継続できる
会社が包括的に承継されるので、そこで働いている従業員との雇用契約も自動的に継続されます。個々の従業員から雇用の意思を確認する必要がありません。もちろん、会社を辞めたいという従業員がいればその意思は尊重されます。
会社分割のデメリット
一方でデメリットも知っておきましょう。
手続きが複雑である
会社分割を行うためには、株主総会を開催し特別決議を経るなど、手続き上複雑な面があります。「新設分割」の場合には、会社の設立登記を行うことや、登録免許税などが課税されるなど。新会社設立と同等の手間と時間がかかります。
機動的にM&Aを行いたい場合、この方法だと迅速な対応ができない可能性があります。
債務や負債も引き継ぐ
包括的に会社の財産を引き継ぐのですが、資産だけではなく負債(債務や借入)も包括的に引き継ぐことになります。
つまり、安易に会社分割により事業承継をすると予想していなかった負債などのリスクを押し付けられる可能性があるということです。
事業譲渡とは?
「事業譲渡」とは会社で行っている事業の一部またはすべてを他社に売却することを指します。
事業譲渡は事業の売買であり、売却側は事業ができなくなる代わりに対価(売却益)が発生します。買収した側はお金を支払い新しい事業を行うことができるようになります。
事例で言うとA社のお菓子の製造販売事業をB株式会社に譲渡、子供用玩具事業をC株式会社に譲渡します。それぞれ得意な分野の会社に譲渡することで生き残りを図ります。
事業譲渡のメリット、デメリット
事業譲渡を行ってM&Aをする場合のメリットとデメリットを考えてみましょう。
事業譲渡のメリット
事業譲渡を行うメリットをまとめます。
必要な事業のみ引き継げる
包括的に事業を引き継がなければならない会社分割とは異なり、事業譲渡は承継する内容を取捨選択できます。」
採算が取れそうな部分だけを切り離して、M&Aしてくれる事業者を探すことができます。
売却で現金が手に入る
事業譲渡は現金での事業売買をすることが多く、売却益が手に入ります。自社ではどうにもならない不採算部門も他人の手によって再生するかもしれません。現金が手に入れば、残した事業部門に投入し、会社を再生できるかもしれません。
後継者問題を解決しやすい
採算が取れそうな事業だけでも「切り売り」できるので、その事業に興味がある後継者候補がM&Aしやすくなります。包括的に引き継がなければならない会社分割だと嫌がる人も、事業譲渡なら受けることもあり、少なくとも会社(の一部)は存続しやすくなります。
事業譲渡のデメリット
一方でデメリットもあります。
多額の税金が発生する
事業譲渡は会社の有償の売買に該当するので、消費税や様々な税金が会社分割と比較してかかります。
税金が重荷に感じて事業譲渡が進まない可能性があるのを意識して下さい。
負債を抱える事業の承継が難しい
包括的な事業承継ではないので、明らかな不採算部門や負債を抱える事業については買い手がつかないことが予想されます。
ジョーカーをあえて引いてくれる人は少ないのだと認識してください。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割も事業譲渡もM&A(事業承継)のための有効な方法ですが、それぞれ違いがあります。どのような違いなのか表にまとめてみました。
|
会社分割 |
事業譲渡 |
M&Aの対価 |
株式が多い |
現金が多い |
税金 |
消費税:非課税 不動産所得税:一定条件で非課税 軽減措置:あり |
消費税:発生 不動産所得税:発生 軽減措置:なし |
会社法上の扱い |
組織再編 |
契約行為、取引 |
債権者保護手続き |
原則必要 |
不要 |
従業員と会社との雇用関係 |
包括的に承継される |
個別同意(各従業員と再雇用契約) |
事業の許認可 |
自動的に承継されるものもある(再取得必要なものもある) |
再取得が必要 |
資産や負債 |
包括的に引き継ぐ |
個別に引き継ぐ |
株主総会の議決 |
必要 |
ケースによる |
端的に言うと、会社分割は会社の「組織再編行為」であり、様々な手続きが必要になります。一方、事業譲渡は会社の事業の一環として自分の会社を切り売りすることになります。現金で自分の会社を身売りするのは事業譲渡になります。
税制面では会社分割の方が優遇されています。組織再編に対して税金はかからない傾向にありますが、会社の売買は当然消費税等が発生します。
スピード感を重視するならば事業譲渡ですが、計画的に徐々に自社の事業をM&Aする時間があるならば、会社分割を検討してもよいでしょう。
会社分割と事業譲渡、どちらを選べばよいか
以上、会社分割と事業譲渡の概要、メリットとデメリットについて述べさせていただきました。
どちらにもメリットとデメリットがあるため、選ぶのが難しいというケースもあります。一応、方向性としては以下のような場合、それぞれを選んでいただければと良いでしょう。
会社分割が望ましい主なケース
- 買い手が買収にあたってコスト(支払い)を抑えたい場合
- 事業をスムーズにお互いが納得する形で承継したい場合
事業譲渡が望ましい主なケース
- 売り手に現金が必要な場合
- 特定の事業の長所を生かして事業を継続させたい場合
- あまり手続きに時間をかけたくない場合
絶対に「こっちがいい」ということはなく、専門家のアドバイスを聞きながらどちらを選ぶべきか決定すべきです。
まとめ 企業の経営に関することのご相談は「企業パートナー110番」へ
M&Aにあたり、会社分割と事業譲渡、どちらが望ましいかはケースバイケースで一律に決定することはできません。ただし、経営者だけの判断で行うと足をすくわれる可能性があります。
事業承継を考えている方は、その前に「企業パートナー110番」に相談してみて下さい。会社分割と事業譲渡、どちらが良いのか、その進め方などについて専門家が適切なアドバイスさせていただきます。